LET THE LIGHT IN - A GUIDE TO SUMMER COLOUR

ダークカラーに包まれると、私たちは漠然と安定や安心を感じます。特に冬の長夜や寒々しい空をそのまま映す鏡のように、ネイビーやブラック、グレーといった色彩を自然とワードローブに取り入れるのです。それは、色を避け、よりダークでよりハードなアイテムを選ぶことで、成熟感を演出し、生真面目な人となりを強調できるから。こうして色を避けることで、厳かな雰囲気を醸し出すことができるのだ、とこれまで言われ続けてきたからでしょう。

そんな私たちも、天候が徐々に変化し、夏の到来を予感するこの季節を迎えると、ダークトーンでは物足りなくなって、自然と他の色にも目を向けるようになる。色彩とワードローブの関係は、このようにシンプルな現象に基づくのであればいいのですが、実はワードローブに色彩を取り入れるのは意外と難しいこと。誰しも冬の間に着ていたモノトーンにうしろ髪を引かれてしまうのが、関の山です。

"一口に色彩を取り入れるといっても、普段の私たちのワードローブのルールを全て手放して、火花を散らすような鮮やかな色の組み合わせや、技巧的な色彩の取り合わせをあえて好む必要はありません。"

一口に色彩を取り入れるといっても、普段の私たちのワードローブのルールを全て手放して、火花を散らすような鮮やかな色の組み合わせや、技巧的な色彩の取り合わせをあえて好む必要はありません。実際のところ、多色使いをモットーに、色に対するいわば最大主義的なアプローチを遂行できる人はほとんどいないといえるでしょう。チェックのスーツに鮮やかな黄色いクロックスを組み合わせたデヴィッド・ホックニーを思い浮かべてみれば、それが通用するのは、あなたが80代のアーティストである場合に限られるのかもしれない、と気づくはずです。

そのような曲芸的なアプローチに代わって、私たちは夏のワードローブに繊細に色を組み込むことができるのです。色使いを正しく微調整することで、スタイルを破壊することなく、着こなしにメリハリをつけられます。これまで最も素敵に色を操ってきたのが、例えばラルフローレンやアルマーニといったブランド。様々な新色の組み合わせを開拓し、ボタンダウンシャツや、クラシカルなニットウェア、リラックスしたスーツといった伝統的な定番のアイテムに、思いがけない色使いで、新たな意味合いを吹き込み続けています。同じ様に、ダスティパープルから大胆なレッドまで、あらゆる色のプリーツスーツで遊んで、素晴らしい創作を行ってきたのが、故三宅一生氏。

こういった自由な精神は、スタジオニコルソンの色彩へのアプローチや考え方の根底にも流れています。型破りなニューヨークのカルチャーや、アルマーニの初期の頃にみられた肩肘張らない類のエレガンスが際立つ、スタジオニコルソン23年春夏メンズコレクションでは、メゾンの色に対する考え方が明快に打ち出されています。アーモンド、ソイル、オリーブといったアースカラーや、ピンク、パープル、ブルーを組み合わせたオーバーサイズのマドラスチェックなど、ポップで明るい色を取り入れた今季のカラーパレットはエレガンスと反逆精神という、相反する二面性をとても繊細に表現しています。今シーズンのコレクションに登場するグラデーションに、着こなしを邪魔する色は一切登場しません。むしろ、それぞれの色があなたの特別なスタイルを際立たせる個性として機能し、ワードローブの定番アイテムを引き立ててくれるようなパレットなのです。

"色のテーマに限らず、コーディネート全般に当てはまることではありますが、サルトリアル的な視点で改めて強調したいのは、ワードローブにさりげなく色を取り入れるコツは、重ね着にあるということ。"

色のテーマに限らず、コーディネート全般に当てはまることではありますが、サルトリアル的な視点で改めて強調したいのは、ワードローブにさりげなく色を取り入れるコツは、重ね着にあるということ。色を使って新しい組み合わせに挑戦することで、ワードローブを一新させることなく、新鮮な空気をまとうことができます。アーモンドのCeiloカーディガンはコートの下に、ベリーのEurusシャツは真っ白いTシャツの下に、それぞれ1枚しのばせるだけで、がらりと着こなしが変わります。マドラスチェックのHaulショートパンツや、アイスブルーのデニムジャケットは、物事を深刻に捉えすぎないようにするためのリマインダーとして機能し、余裕を感じさせるアイテムです。

こうした遊び心で、コーディネートに効果的に色を差すことができます。このように、より多くの色をワードローブに組み込むのに最適な時期は、季節が変わるころ。そして、明るい色調は決して明るい季節に限って使える色ではない、というのも重要な点です。近年、ファッションの世界では「ドーパミン・ドレッシング (dopamine dressing)」という新しい流行語も生まれていますが、頻繁にファッションに登場する使い捨てのトレンドや流行とは異なり、このワードには普遍的な意味がある、と捉えるべきでしょう。ドーパミン・ドレッシングをシンプルに解釈すれば、それは「好きな服を着ることこそが幸せの秘訣で、その実現に欠かせないのが、明るい色である」という考え方です。こうしてみると、明るい色合いは2月、3月の寒い時期にも、夏の時期と同じくらいに重要なものなのです。

春は、冬の束縛から解き放たれるように、光を取り込みながら新たなスタートを迎える時期で、これは衣服にも当てはまること。チェスナットのニットやクラインブルーのアウターなど、ポップなカラーを取り込むことで、気分も一新できます。様々な色にチャレンジして、どんな天候にも対応できる素晴らしいワードローブを作りあげるきっかけとなる、特別な季節なのです。